美空ひばりは蘇ってない

AIシンガー

NHKとヤマハの協力で完成したAI美空ひばりは、楽譜を渡せば美空ひばりのように歌ってくれる“システム”です。その歌声はそこそこリアルなので、巷では「美空ひばりを蘇らせた」というフレーズをそこそこ聞きます。

でも、ちょっと落ち着きましょう。美空ひばりは蘇ってないし、新曲も発表してません。整理してみます。若干屁理屈くさいので注意。

AI美空ひばり

美空ひばりは蘇ってない

「美空ひばりが蘇る」というのは、「人間としての美空ひばりそのものが息を吹き返す」ことを指します。もしくは、最近なら「精神としての美空ひばりそのものが思考を再開する」もあるかも。

AI美空ひばりは肉体を持たないし、持ったとして美空ひばりと完全に一致するものではない。自律的、総合的に思考することもない。

あくまでAIを使った「美空ひばりエミュレーター」であって「美空ひばり」ではない以上、蘇ったというのは詩的な誇張表現に過ぎない。

「蘇る」という表現をNHKが使ったのはおそらく広報的な意味合いだと思います。「AI技術で美空ひばりの歌い方を再現した」だと、分かる人がすごいと思うだけかもしれないですが、「AIが美空ひばりを蘇らせた」だと、よくわからない人でもそれはまずいのでは? と思うでしょう。

AI美空ひばりは新曲を発表していない

これは本当にただの屁理屈ですが、AI美空ひばりを使って音声を合成したのがヤマハさん。その音声を使って新曲「あれから」を発表したのがNHKさんです。AI美空ひばりはそれ自体に意思も肉体もないので新曲を発表しようがない。

これも広報的言い回しで「NHKがAI美空ひばりの合成音声で新曲を披露」よりも「美空ひばりが新曲を発表」のほうが話題性がある。事実とはずれますが。

同じく、「死んでもなおこき使われる」というのも違います。死んでもなおこき使われているようには見えますが、働いているのはヤマハとNHKの担当者だし、美空ひばりさんは蘇っていない以上働いていない。

ちなみに、「蘇る/蘇らせる」という表現はNHKさんのみが使っています。ヤマハさんは「歌声を再現」くらいの言い方ですね。「美空ひばりが新曲を発表」という表現は報道でもあまりなかった気がします。「美空ひばり(AI歌唱)が新曲」はありましたが。

蘇ってないとすれば何が微妙なのか

美空ひばりは蘇っておらず、あくまで「美空ひばりっぽい音声を合成するシステム」ができただけなので、倫理上大丈夫そうな感じはしますが、Twitter上では倫理的にダメ/嫌/違和感があるなどなど否定的な反応もよくあります。

よく見かけるのは「本人の許可をとっていない」「故人の遺志に反している」というコメント。

「本人の許可をとっていない」のは100%正しい。美空ひばりさん本人には許可をとれないから。AI美空ひばりに関しては、学習のための音声は息子さんから許可を得て提供されている。いわゆる代理人の許可はあるということですね。これは最低限のライン(人による)だと思います。

「故人の遺志に反している」かどうかは一切わからない。本人の許可がとれないのとまったく同じように、本人の意思も今ひきだすことはできない以上、美空ひばりさんがAI美空ひばりを歓迎するか嫌悪するかは絶対に分からない。

予想することはできますが、予想した人が本人でないならそれは本人の意思ではないのでやはりわからない。AI美空ひばりの歌唱も「美空ひばりならこう歌う」という予想音声ではありますが、本人が歌っているわけではないので、実際本人が歌うとどうなるかは一切わからない。

つまり「本人の許可をとっていないのは確かだが、もしとれたら歓迎されるか嫌悪されるかというと、それは“不明”」ということに。めっちゃ微妙。

もちろん、本人が許可しないことが明確であるなら絶対にアウトですね。本人が許可することが明確ならセーフ。今回はわからないのでグレー。だから賛否両論あるんですね。個人的には「YesかNoかはっきりしないならやるべきではない派」です。

故人のエミュレーターを作ること

私は身近な人を亡くした経験がないのでわからないのですが、おそらく、身近な故人をAIで再現されたらめちゃくちゃ違和感あるだろうし嫌ですね。思考実験してみましょう。

例えば、再現したのがAIではなく人間だったらどうでしょう。葬儀の場で、親族の誰かが故人の真似をしてみたとする。そういうCMあった気がする。お父さんのしかり方を真似するやつ。

あれは、思い出に浸るためのモノであって、あんまり嫌な感じはしない。茶化されたら普通に嫌。

モノマネが見た目も声もしぐさもすべて完璧だったらどうだろう。普通に怖い。

AIがそんなに似ていないモノマネをしたとしたらどうでしょう。見た目も声も似てないけど、叱るときのフレーズだったり声の起伏だったりが若干似てるくらいの。

いい気はしないけどめちゃくちゃ嫌というほどでもない。いい気はしないけど。

AIが完璧な故人のコピーを始めたら嫌ですね。

というわけで、故人再現に関しては

・茶化したらダメ
・クオリティーが高すぎるとダメ

なのは確かっぽい。私の中では。

もう一つ問題があるとすれば「自由にできてしまう」ところかと。親戚のおじさんは自由にコントロールできないが、AIになら(システムにもよるが)好きな歌を歌わせられる。

「あれから」は歌詞がえげつないくらいあざとい(知っている人の感情を無理やり引き出しに来てる感がある)けど、比較的綺麗な曲に仕上がっている。

これが下ネタ満載の下品な曲を歌わせたときには大変ですよ。デモが起きかねない。

どちらも本人の許可は取っていないという点は同じだが、侮辱的なのはいけない。

では、普段から下品な曲を歌っていた人の再現AIに下品な新曲を歌わせるのはどうなのか。これはまだアリなのでは?

つまり

・好き勝手できるのはダメ
・解釈違いを起こすものはダメ

ちなみに、ヤマハさんは「番組用に美空ひばりエミュレーターを作った」けど「美空ひばりエミュレーターを公開」はしていないので、好き勝手されないようになっている。

私の結論はこの辺です。AI美空ひばりはこのような議論を巻き起こせるだけの力を持ったんですね。

・クオリティーが高すぎるとダメ
・茶化したらダメ
・好き勝手できるのはダメ
・解釈違いを起こすのはダメ
※個人的意見です

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