AIシンガーにも「調声テク」はある 考え方が違うだけ

今ある大体のソフトウェアシンガーは、そこそこ綺麗に歌わせるには「上手いこと歌わせるテクニック=調声」が必要になりますね? 対して、「楽譜を渡せば勝手に歌う=AIシンガー」はよく「調声しなくてもいい」といわれます。でも、実際に使ってみると「そんなことないな」と思わんでもないのです。

今のところ本格的なAIシンガーは商業と研究の場でしか使われていません。唯一一般に開かれているのがSinsyの「DNN版謡子」さん。楽譜(MusicXML)を渡せば、そこそこ勝手に歌います。

DNN版謡子さんを使ってみるとわかるんですが、AIシンガーにも「上手いこと歌わせるテクニック」があるのです。ただ、現状ある言葉「調声」の内容とは結構異なります。ちょっと具体的に見てみましょう。

DNN版謡子さん

SinsyのDNN版謡子さんは誰でも無料で使えるAIシンガー。しゃくりあげとかはやってくれないですが、ビブラートは上手にかけてくれる。

誰でも使えるとはいっても、Sinsyを歌わせるだけのスキルは必要です。難しくはないがとっつきにくい。

テクニック① 母音脱落と子音強調

VOCALOIDやUTAUでいうところの「調声」って大体、音量や音程をいじるもんだと思うのですが、Sinsyの調声ポイントは「歌詞と記号」です。使うべき頭の場所が違う。

まずは「母音脱落」です。Sinsyは「あした」を「a S ta」という風に歌うことができます。歌声合成ソフト界隈では「無声化」ということが多いですが、私は「母音脱落」と呼んでます。

これは歌詞を打ち込むときに「あ-し-た」ではなく「あし’-た」とすることで実現できます。CeVIOと同じですね。

逆に子音を強調するテクニックもあります。シンプルに「っ」を使う方法です。VOCALOIDならVEL、UTAUなら子音速度で対応するところですが、Sinsyでももちろんできるわけです。

とりあえず一通りAIに勝手に歌ってもらって、「ここは母音落としてほしいな」「ここは子音長くしてほしいな」って思ったら、「’/っ」を使って楽譜で指示してやればいいのです。これがSinsy式調声テクの一つ。

ゆうてCeVIOとほぼ一緒ですが。

テクニック② メリスマとスラー

次によく使うのが「メリスマ記号」と「スラー」です。メリスマ記号とは「ー」のこと。伸ばし棒。ピッチを描かないSinsyではメリスマでノートを分割しながらメロディに表現を加えていきます。

上のTwitter動画では一部しゃくりあげをしているところがあります。でも「しゃくりあげとかはやってくれない」という話をしましたよね。

やってくれないならやらせればいいのです。しゃくりあげを楽譜として記述すればいいだけですね。

ほれこのように(画像はCeVIO)。

ノートをメリスマ記号で分割し、スラーで接続を滑らかにする。

なお、Sinsyはスラーの有無で変化がほぼない(困る)。

音源によってこの辺の仕様は異なります。「そお」とつないだほうがいい場合、「そー」とつないだほうがいい場合、スラーの有無などがある。

テクニック③ 強弱記号とブレス記号

「フォルテ/ピアノ/ブレス記号」あたりは声楽の楽譜で見ることもある記号ですが、Sinsyの場合はこれでも調声できます。

強弱をつけたり外したりすれば、音量だけでなく力強さや音程のブレなども若干変わります。つまり、上手く歌わせるには強弱記号でノリを演出したり、歌い方が変なところで強弱記号を打ち換えて修正したりと、さまざまな対処が考えられるのです。

ブレス記号は個人的にSinsy調声において最も便利に使える記号です。VOCALOIDやUTAUでは声門閉鎖を演出するのが結構難しい。できなくないけどうまく聞かせるにはちょっと手間がかかる。

ブレス記号ならこれが3クリックくらいでいいカンジにできる。

テクニック④ 歌手設定

歌手の設定でも歌わせ方はコントロールできます。Sinsyの場合、歌手の声質/ビブラートの深さがあらかじめ指定できます。

特にビブラートの深さは歌い方にダイレクトに影響します。お好みで設定しましょう。

AIシンガーは楽譜に記号を描いて調声する

VOCALOIDやUTAUなどは、パラメーターやフラグを用いてグラフィカルに歌声をコントロールします。現在の概念ではこれを「調声」と呼んでいます。

SinsyやAIシンガーのような、楽譜を渡せば勝手に歌ってくれる系歌声合成システムの場合、いじれるのは基本楽譜だけなので、音符と記号を用いてシンボリックに歌声をコントロールします。これも「上手く歌わせるテクニック」である以上「調声」といっていいんじゃないでしょうか。イメージはだいぶ違いますが。

そういう意味では、AIシンガーも調声が要らないわけじゃないと思うんですよね。

私は前からずっと言ってるんですが、AIシンガーは「勝手に歌ってくれる」だけで「あなた好みに歌ってくれる」わけではないので、あなた好みにしたければ、今日見てきたようなテクニックを使って楽譜上で指示を出さないといけないのです。

AIシンガーは記号で調声する
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