昨日(7月22日)、CeVIO AIが発表されましたね。加えて、ONE、IA、結月ゆかり、v flowerのCeVIO AI音源も出るとの情報が公開されましたね。
私もそれについて(趣味や仕事で)記事を書くとき「結月ゆかりがCeVIO AIに進化」とか「ボカロキャラのVOCALOID離れが深刻に?」とか煽りタイトルつけようかと思ってたんですが、思いとどまりました。それは違うのです。
VOCALOID音源ベンダーがCeVIO音源“も”売るようになるだけなんですよね。
論点A 「CeVIO AIに進化」が微妙な理由
元々CeVIO音源だったONEやIAが、CeVIO AIに進化したというのはとりあえず間違いではない。技術的に見て、HMMベースのCeVIOからDNNベースのCeVIO AIにグレードアップしている。
ただ、「VOCALOID結月ゆかり」「VCALOIDflower」がCeVIO AIに「進化した」というのは微妙。全くの間違いではないが的は射ていない。
一つは「VOCALOIDを進化させたらCeVIOみたいなものになる」というのが間違いというのがある。VCALOIDは中の人の音声波形を切り貼りするタイプの歌声合成ソフト。CeVIOは中の人の音声波形を機械でシミュレーションする(波形自体は合成に使わない)タイプの歌声合成ソフト。技術が別ジャンルなので、VOCALOIDの技術を進化させてもCeVIOにはならないし、その逆もしかり。
例えるなら「サンプラーを進化させてもFMシンセにはならない」みたいな(的を射ていない)。「鳥を進化させても哺乳類にはならない」みたいな?(的を射ていない)。
もう一つは「技術の新しさとソフトの進化は関係ない」というところ。新しい技術を使っててもクオリティーが下がっていれば「退化」だし、技術が古くてもクオリティーが高いなら「進化」と言える。
確かに今のトレンドは素片接続よりもAIだが、見方次第で「機能が多くて思い通りにコントロールしやすい素片接続系ソフトのほうが使いやすい」という意見もあるだろうし、「何もしなくても人間っぽいAIシンガーのほうが楽」という意見もあるだろう。何を進化ととらえるかは、使う人が何を求めるか次第だ。
逆に「いろいろ操作しないといけない素片接続系ソフトのほうが使いにくい」「機能が少なくて思い通りにならないAIシンガーのほうが難しい」という意見もあって当然なのだ。すべてのソフトには向き不向きとメリットデメリットがある。
大体、ボカロファンならご存知の通り、人間っぽいのが好きな人と機械っぽいのが好きな人がいる時点で、「どっちに転ぶのが進化なのか」というのも決まりはしないと思う。
論点B 「ボカロキャラのVOCALOID離れが深刻」が間違いな理由
結論から言うと「離れてないから」だ。CeVIO AI用音源がでても少なくともしばらくはVOCALOID音源との併売状態になるだろう(要裏取り)。正しく言うなら「ボカロキャラがVOCALOID以外の歌声合成製品に“も”なった」だ。VOCALOID→CeVIOではなく、VOCALOID+CeVIO。移行じゃなくて追加。
「CeVIO AIになります! もうVOCALOID音源は作らないし売りません!」ということならVOCALOID離れともいえるだろうが、今回は「CeVIO AI音源出します。VOCALOIDと一緒に売ります」という話のはずなので離れていない。
これは、クリプトンも初音ミク NTを発表したころにも同じことを言っている。NTは売るけど、V4以前の製品も同じく売っていくと。
各社の見解はいずれも「選択肢が増えた」だ。今まではVOCALOIDしか選べなかったが、これからはCeVIO AIやPiapro Studio NTも好きに選べるようになる。ユーザーは操作性や声の好み次第で好きなソフトを使えばいい。何なら全部使ってくれてもいい。私と仲間になろう。
ついでに言っておくと、音源ベンダーの人々は「ヤマハと喧嘩したわけじゃないよ」と表明している。「喧嘩はしてないにしてもまぁ色々なんやかんやあったんやろなぁ~~」と思うのは自由だが、少なくともソース(情報源は)喧嘩していないと言っている。
論点C ソフト制作(法人側の話)とファン文化(個人側の話)は別
なお、この進化とか離れるとかいう話は法人側の事情の話だ。ファン文化からしてみれば「ゆうて知名度は“ボカロ”が最強でしょ」ということになるだろう。CeVIO AI音源が出てもVOCALOID文化は委縮しないと思う。だってVOCALOID文化めちゃくちゃ強いし。
どう贔屓目に見ても、「CeVIO AI」「Piapro Studio NT」「Synthesizer V Studio Pro」の認知度はVOCALOIDほど高くないはずだ。一般の方々からすれば、せいぜい「ボカロ」までしか認知されていないはずだし、ライトなファンからすれば良くて「ボカロ、ボイロ、UTAU、CeVIO」まで知られているかいないかくらいのラインだろう。
今後この3ソフトがどの程度知名度や実績を伸ばしていくかが勝負であり見どころになっていくわけだ。
個人的には、一般人やファンは「CeVIO AI」「VOCALOID」といったプラットフォームではなく「IA」「結月ゆかり」といったキャラクターを軸にこの文化を認識していくと考えている。プラットフォームが気になるのは技術系オタクとユーザー、イベンターくらい。
最近では「初音ミク? あぁなんかVTuberみたいなやつ?」みたいな反応が返ってくることもあると聞くが、要するに「誰がいつ、何で作ったのか」は見えないので、表に出ているキャラクターが標識になるんだろうなと思っている。