人に近づき、人を超え、人に支配“される”AI【読み物】

AIシンガー

SF作品では、AIやロボットの非人間的な部分がフィーチャーされたり、人間を支配し始めるというストーリーが結構あったりするが、実際にAIと向き合ってみると、全く逆のことが起きていたりして面白い。

人間らしいAI

2月に登場したAI歌声合成ソフト「NEUTRINO」は、楽譜を渡すだけで人間のような歌声を合成するシステムだ。登場した当初その人間らしさが注目された。

人間に近い歌い方なのはもちろん、息継ぎをしないと長いフレーズが歌えなかったり、人間に歌えないような超高音が出せなかったりと、弱点も人間らしかった。

「息継ぎしないといけないAI」はとても新鮮な概念に見えた。

人間を超えたAI

しかし、NEUTRINOはアップデートを重ねる中で、人間に近い歌唱スキルはそのままに、音域制限やエラーがなくなり、人間のできなかった超高音も出せるようになった。

「人間に近い→人間を超えた」の流れだ。SFならこの後「人間を支配しようとする」に移るのかもしれないが、NEUTRINOは逆に人間に支配されやすくなった。

ベースの「人間に近い」が、まだ「人間と区別がつかない」に達していないので、人間を超えたというのは過言かもしれない。厳密には「人間にはできないこともできるようになった」くらいだ。

“使いやすくなった”AI

3月にはGUI、つまりは“ユーザー”インターフェースが登場したのだ。それまではNEUTRINOをコントロールする手段はほとんどなかった。GUIの登場でNEUTRINOは格段に“使いやすくなった”。

人間には音域や肺活量に制限がある、作曲家はこれに合わせて曲を作らないといけず、その制限はどうしても自由な表現の足かせになってしまう。人間は不便で使いにくい。

これらの制限がなくなった結果、人間より使いやすいなら、当然使われるものになる。人間を超えることは人間より使いやすいことでもある(もちろんそれ以外の側面も多い)。

もちろん、使いやすさだけが重要なわけではない。使いやすさ以外の部分はたいてい人間のほうが勝っている。

ネタばらし もともと使う前提のモノだった

NEUTRINOには別に自律思考機能があるわけでもなく、最初から「楽譜を歌わせるためのモノ」として作られているので、進化しても人間を支配しようと“考える”ことはなく、進化したら当然使われるようになる。

これは他のAIツールでも同じだ。人間のやっている作業を速く実行する、もしくは長時間実行するAIツールは実用化が進んでいる。とても“便利”だ。

人間を支配できる機能は載っておらず、最初から人間が使うものとして開発されているのだから、「人間に近づく→人間を超える→人間に使われる」の流れは実は当たり前だ。

SFの「強いAI」と、現実の「弱いAI」

SFに出てくるAIが現実のAIと違うのは、それが汎用型の「強いAI」である点だ。現実のAIは、ある特定の分野においてのみ人間に近づき、人間を超えている。SFのAIは、総合的に人間を超えている。

今は「弱いAI」の時代であり、SFはまだしばらくSFのままなのだろう。

AIツールが登場し始めたときには、SFのような「人間が仕事を奪われ、AIに支配される」という懸念が出ていたが、仕事を奪われる(かもしれない)のは弱いAIの時代、支配される(かもしれない)のは強いAIの時代なのかもしれない。

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